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- 2015.10.30 Friday
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その日を思い出すと何故か秋だったと言う気がする。もちろん秋である筈がない。何故ならその日は卒業式だったのだから。
早春の農村風景は見渡す限り黄色っぽい田圃が広がり、その向こうに藁屋根の農家が幾つか見える。その景色は何時も見ている当たり前の景色なのに、その日の私には酷くみすぼらしく侘しい景色に思えた。
私は肩をすぼめ、ひとりぼっちで、そんな景色の中を歩いていた、何時もなら級友の誰かが一緒なのに。
私が歩いている村道に沿って、田圃に水を引くための小さな水路があった。季節により水量は増えたり減ったりする水路で、農事のまだ始まっていない早春は雪解け水が所々に溜まっている程度だ。その水溜まりは泥水だった。私は立ち止まり、手に持っていた小さな芥子色の縫いぐるみのキリンをその泥水めがけて放り込んだ。どす黒いような感情が胸に満ちていた。心からの信頼を裏切られた失望は15才の胸には負担過ぎる。あの日が秋だったような気がするのは、そんな感情が理由かもしれない。
有り合わせの芥子色の端布を見つけ、小さな縫いぐるみを作った。卒業の記念に、私はその人に上げたかったから。首の短い手の中に入る程の愛らしい縫いぐるみだった。
私の差し出す縫いぐるみのキリンを見ようともせず、もちろん受け取るつもりは無く、その人は吐き出す様に言ったのだ。
「男に惚れられる様にな、、、」
惚れると言う言葉の意味さえ朧にしか理解していない15才の私は唖然とした。その言葉は酷く汚らわしくおぞましい響きを持っていた。その言葉がその人の口から出て来た瞬間、私の偶像は音を立てて地に落ち瓦礫と化した。そしてきびすを返して去って行くその人の後ろ姿の何と不潔に思えた事か。信頼が一瞬にして侮蔑に代わったのだった。
成人するにつれて、私はその人の教育者としての資格をも疑う様になった。「ありがとう」と一言言えば済む事ではないか。ついでに「元気で頑張るんだぞ」とでも付け加えたら、何を頑張るのか不明でもそんな事はどうでも良い。少女は気分も晴れ晴れと、早春の光を満喫しただろう。
その人は私の学級担任教師、そして私の憧れの人だった。自分が私の憧れの的だと言うことを感じていたのだろう、学年末頃には極端に私との接触を避けていた。例えば、生徒たちの進路を決めるための面接、と言うものがあって、担任教師は順番に一人一人の生徒たちの相談に乗ってやる時間だ。放課後二人、三人と指名し、その子たちは残って順番を待っていた。出席簿順に呼ばれていたから、今日は私もその中の一人だと思っていた日、私をオミットして次の子を呼んだのだ。一通りみんなが終わると又出席簿の最初から始まる。しかし私は一度も招かれなかったのだ。忘れたのではない、故意に避けていたのだ。私は進学する事に決まっていたからだろう、とも思ったが、他の進学を決めていた子たちは招かれていたから、やはり故意に避けていたとしか考えられない。
思春期の15才の少女の憧れは、夢のような儚い、淡いものである。私には何ら特別魂胆がある訳でもなかった。
今にして思うが、その人は私が彼に恋をしていると自惚れていたのだろう。その人には許嫁が居たけれど、私は彼女に嫉妬を感じた事などない。と言うことは恋とは言えない感情だったのだ。
その後その人に会う機会は無く、私も人並みに大人になり生涯の愛を得て、外国で暮らしていた。あの日から30年位は経っていたろうか。ある年、私の帰省を機に昔の級友たちが同期会を計画してくれた。あの当時クラスは三つあったので、その三人の担任教師たちも招いてあった。外国暮らしの私を物珍しく思う気持ちもあったのだろうが、かなりの元級友たちが集ってくれた。が、二人の他の担任教師達は亊情が悪く欠席、出席したのはその人一人だけだった。
懐かしげに笑顔を見せてその人は私に挨拶した。私はその挨拶を素直には受け入れられず、冷淡に頭を軽く下げただけだった。何故あのように冷たく振る舞えるのか、と思える程に冷たい私自身の態度に、私自身がびっくりした程だった。あの日の事、あのおぞましい響きのある言葉、それは私の心の片隅の何処かに潜んでいる。あの芥子色の愛らしいキリンへの不憫な思いも蘇った。でも、その人はすっかり忘れていたのだろう。私の冷淡な態度が遠い昔の思い出をたぐり寄せたのかもしれなかった。
当然会話など弾む訳は無く、その人も居心地が悪かったのだろう、間もなく座を立った。挨拶もなくひっそりとその場を去ったのだ。私はその時、小さな小さな勝利を感じた。何の値打ちも無い勝利ではあったけれど、幾許かの溜飲を下げた思いが胸に満ちた。
クシイスツィ・コム(雷)は或る男とその妻に嫉妬していました。
彼らのティピィ(テント)を襲い、彼らを打ちのめしてその妻を奪いました。
男は正気を取り戻してから、至る所を歩き回り動物達に援けを求めました。
みんなクシイスツィ・コム(雷)の威力を恐れていました。
ついにオマァカイ・ストゥ(大烏)が援助を承知しました。
オマァカイ・ストゥ(大烏)はクシイスツィ・コム(雷)の家に行き挑戦しました。
クシイスツィ・コム(雷)はオマァカイ・ストゥ(大烏)に向けて稲妻を打ち放ち殺そうと試みました。
が、オマァカイ・ストゥ(大烏)も自身の威力を発揮、羽ばたいて冷たい北風と雪を運んできました。
次第に冷たさがクシイスツィ・コム(雷)を弱らせ、もうそれ以上危険な稲妻を放つことが出来なくなりました。
それは長い戦いでしたが、結局クシイスツィ・コム(雷)は諦め、男の妻を返しました。
オマァカイ・ストゥ(大烏)はクシイスツィ・コム(雷)に一年を冬と夏に二分することを要請しました。冬は大烏の季節、夏は雷の時間です。
オマァカイ・ストゥ(大烏)はクシイスツィ・コム(雷)にニツィタピイ族(ブラックフット族)と平和条約を結び、それを我々に同意のしるしとして与えることをことを命令しました。
その日以来春が来て、最初の雷を聞くと我々はサンダー・メディシン・パイプの束を開きます。
良い天候を願い、良い収穫とその一年の幸運を願うのです。
オマァカイ・ストゥ(大烏)はクロウスネスト(烏の巣)と現在呼ばれる山に住んでいました。
クシイスツィ・コム(雷)はニナスタコ(チーフの山)に住んでいました。(ブラックフット族の伝説)
このお話しはカルガリーのグレンボウ博物館に行った時展示品と一緒に掲げてあったお話を拾ってきたものです。
昔、ナイアガラの滝の近くには平和を愛する『中立インデアン』と呼ばれる部族が暮らしていました。いつの頃からか、誰も記憶してはいませんでしたが、部族の人々が原因不明の病気で亡くなり、埋葬後にはその墓があばかれ遺体が盗まれるという不気味な出来事が続いていました。
もう長いことインデアン達は毎年、滝に住む雷神とその二人の息子達をなだめるためのお供え物としてカヌー1杯の獲物や果物を滝に流していました。それは、この惨事はきっと雷神の祟りだと考えたからです。でも止むことがないので、その程度のことでは満足していないからだろうと村一番の美しい娘をいけにえとして滝に流すようになりました。
毎年村の娘達の中から選ばれた『霧の乙女』はカヌーに乗せられ、獲物や果物と一緒に滝のしぶきの中に消えていきました。そんな悲しい努力を続けていたにもかかわらず、墓をあばかれる惨事はまだずっと続いていたのです。
ある年、酋長の娘レラワラが『霧の乙女』に選ばれました。酋長は娘がいけにえとして身支度させられるのをただ無表情に見つめていましたが、我が子がカヌーに盛ったお供え物と共に流されて行くのを見送ると自分もカヌーに乗ってその後に続きました。二つのカヌーは滝を落ちて行き、それっきり二度と人の目にふれることはありませんでした。
話はここで終わったのではありません。
伝えられるところによると、レラワラは滝壷に向かって落ちて行く途中、雷神の二人の息子達に受け止められました。この息子達二人はレラワラが来ることを知っていました。二人とも彼女に恋をしていたのです。
レラワラは自分が村人達を救うため、死出の旅に出されたのだということを思い出し条件を出しました。この条件に適った方をお受けしましょうと。もし、村人達の不幸の原因を知ることができたら、そして、その原因を知らせに一度村に戻ることが出来たら永遠にこの滝の裏側に住むことを約束しましょうと。
雷神の二人の息子達は秘密を守る誓いをたてていたので、それぞれ自分の良心と闘わなければなりませんでした。誓いを破ってレラワラを妻にするか、誓いを守って彼女を諦めるか二人は悩みました。
ついに弟の方が耐えられなくなって、川の底に横たわっている巨大な水蛇のことを話してしまいました。この大水蛇は年に一度空腹になるというのです。空腹になるとインデアン達が眠っている夜中に村に忍び寄り飲み水に毒を入れていたのです。その毒で死んだ者が埋葬されると、墓をあばいて遺骸をむさぼり食っていたのでした。
レラワラは魂の形で村に戻ることを許されました。そして村人達に大水蛇を退治する方法も伝えました。まず、水は泉の水しか飲まないこと、そして水蛇の現れる夜が来たら、ヤスや斧や弓矢などなんでも手持ちの武器を使って退治するようにと。村人達はレラワラに言われた通りにしました。大水蛇は瀕死の重傷を追い川辺リまで逃げおおせたのですが、滝の縁にひっかかってしまい川の底までは逃げることができませんでした。
インデアンの神様マニトゥは、インデアン達を助けて大水蛇の頭が滝の一方の端に、尻尾がもう一方の端に岩で押さえつけられるよう仕向けました。いまわのきわの苦しみにもがいたあげく、大水蛇はのた打ち回ってその体を歪めたので弓なりに反りかえり息絶えました。その形が馬蹄滝となって今も残っているのです。そして、滝のしぶきの中に『霧の乙女』レラワラの影を見かけることが今でもあるといいます。(ナイアガラに伝わる民話)
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それは遠い昔むかしのことですが、とある湖でビーヴァーとジャコウネズミが楽しく遊んでいました。水は澄んでいて冷たさも心地よく、泳いだり、潜ったり、飛び込んだりと楽しい時間が過ぎていきました。
ビーヴァーはちょっと動作を止めて聞き耳を立てました。
『ジャコウネズミのしっぽは水を叩いた時、なんて素敵な音をだすんだろう。』とビーヴァーは思いました。
『ボクにもあんなしっぽがあったらいいのになァ。ボクのしっぽは全然音なんかたてないんだから。』
そこでビーヴァーはジャコウネズミに近寄って言いました。
『ねぇ、ジャコウネズミクン。君のしっぽは水を叩くと素敵な音を出すねぇ。ボクにもそんなしっぽがあったらいいなァと思うんだ。ちょっとの間だけ取りかえっこしない?』
ジャコウネズミはことさら深い考えも無く『ちょっとの間だけだょ。』と快く取り替えっこを承知しました。
ビーヴァーはその新しい尻尾に興奮しました。あっちへ、廻り、こっちへ潜り、ひっくり返り。。。とあらゆるしぐさをしてみました。とても幸せでした。水の中に飛び込み、その新しい尻尾が水の表面を叩く音に満足して微笑しました。それはそれは素晴らしい響きでした。
ジャコウネズミは水辺に立ってビーヴァーが水をはじき幸せいっぱいで遊び廻るのを見ていました。見ているうちにだんだん取り替えっこを後悔しはじめました。だって、ビーヴァーがあまりにも楽しそうに遊ぶものですから。
それで、もう返して欲しいと思い、次にビーヴァーが水の上に顔を出した時すぐに言いました。
『ねぇ、ボクのしっぽもう返してよ。』
もうただのいっときもその尻尾無しではいられないような気がしました。でも、ビーヴァーは返そうなんて気はさらさら無くて、急いで藪の中に隠れました。ジャコウネズミはその時やっとビーヴァーに騙されたと気づきました。ビーヴァーには尻尾を返す気なんて全く無いのだと判ってとても悲しくなりました。
ジャコウネズミは泣きながらビーヴァーの後を追いました。
『返してよ、返してよ。ボクの尻尾を返してよ。ボクだってその尻尾欲しいんだから。』
何度も頼みましたが、無駄でした。ビーヴァーはジャコウネズミの尻尾を決して返そうとはしませんでした。そして今でもその平たい尻尾を持ち歩いているのです。(インデアンの民話)
テンは狩りに優れた動物でした。
大きくは無かったけれど、その決意の堅さで知られ偉大な権威と見なされていました。テンの息子はやはり偉大な猟師になりたいものと思っていました。或る日、息子は何か試しに捕まえてみようかと出かけて行きましたが、それは易しいことではありませんでした。至るところ雪はとても深く、とても寒かったからです。
当時、地球はいつも冬で暖かい気候などと言うものは無かったのです。息子は長い間収穫も無しに獲物を探して歩き廻りました。ああ、そしてついにリスを見つけたのです。音を立てぬようつま先だって、出来るだけ素早く近寄り襲いかかりました。両前足で抑えつけるとリスが話はじめました。
「孫よ」とリスが言いました。「殺さないでくれ。いい助言を上げるから。」
「じゃあ言ってくれ。」と若いテンが言いました。
「見たところ君は寒さに震えているね。わしの言う通りにすれば、わしらは皆暖かい気候を楽しめるし、そうすれば、餌をさがすのも容易になり今のように餓えなくても良くなるのだ。」
「何をすればいいか言ってくれ、爺さん。」と若いテンは言ってリスを放しました。
リスは素早く近く木の一番高い枝に駈け登り、また話しはじめました。
「家にお帰り。そして何にも言っちゃいけない。ただ、家の中に座って泣き始めるんだな。お母さんがどうしたの、と聞くだろうけど返事をしてはいけない。もしお母さんが慰めようとしたり、食べ物を持ってきてくれても、強引に拒否しなくちゃいけないよ。お父さんが帰って来たら、やはりどうして泣いているんだと聞くだろう。その時は口を利いてもいいのだ。お父さんに言うんだね。“風が冷たすぎるし、雪が深すぎる。地球に暖かい気候を持ってこなくちゃ。”って。」
そこで、若いテンは家に帰りました。そして家の片隅に座り泣き始めました。お母さんがどうしたのと聞いても答えようとはせず、食べ物を持って来てくれると押し返しました。お父さんが帰って来ました。一人息子が泣いているのを見て側に来ました。
「どうかしたのかィ?」とテンが聞きました。
そこでやっと若いテンはリスが言った通りのことを父親に言いました。
「僕が泣いているのは風が冷たすぎるし、雪が深すぎるからなの。冬のために僕達はみんな餓えているんだよ。お父さんの力で暖かい気候を持ってきて欲しいんだ。」
「とっても難しいことを君は要求しているんだよ。」とテンは言いました。「でも、君の言うことは正しい。どこまで出来るか判らないけれど、力の限り試してみようじゃないか。」
それからテンは大宴会を開きました。友人たちをみんな呼び集め、これからしようとしていることを打ち明けました。
「今から、空の国が地球に一番近いところに行くつもりだ。」と彼は言いました。「空の国の人達が暖かい気候を全部持っている。その幾ばくかを持ち帰るつもりだ。そうすれば雪が溶けて、充分な食べ物が手に入るだろう。」
友人達はみなその計画を大変喜んで、同行を申し出ました。そこで、出掛ける時テンは最も強い友人達を選んで旅立ちました。それはカワウソと、山猫と、アナグマでした。四人は連れ立って長いこと雪の中を歩きました。彼等は山に向かっていました。毎日毎日、昨日よりも高い山を目指して歩き続けました。テンは干した鹿肉を持ってきていたのでそれを食べ、夜は雪の下で眠りました。
ついに、何日も何日も歩いた後で、やっと一番高い山にたどり着きその頂上に登ったのです。それからテンは袋からパイプとタバコを取り出しました。
「四方にタバコの煙を奉納しなければ」とテンは言い、四人でタバコを吸い、ギッチー・マニトゥに成功を祈りました。
空は彼等の頭上に非常に近いのですが、その上の国に入るための路を開けなければなりません。
「飛び上がらなくちゃ」とテンが言いました。「誰が先に行く?」
「僕がやって見よう」とカワウソが言い空に向かって飛び上がりましたが、空に穴を開けることは出来ませんでした。逆に、落ちて山の麓までお腹ですべり下りてしまいました。
今でもカワウソは雪の中をその時と同じように滑っています。
「今度はわしの番だ。」と山猫が言いました。山猫も飛び上がりました。空にかなり激しくぶつかり、落ちて気を失ってしまいました。そこで今度はテンが試してみましたが、彼でさえも充分な力が無く成功しません。
「君の番だ。」とテンはアナグマに言いました。「君が一番強いんだから。」
アナグマが飛び上がりました。非常に強くぶつかり落ちてしまいましたが、諦めません。何度も何度も飛び上がり、空にひびが入るまで続けました。もう一度飛び上がって、とうとう穴を開けることに成功しました。テンも彼に続いて空に入って行きました。
空の国はとても美しいところでした。暖かく、太陽が輝いていてあらゆる種類の草木や花々が育っているのです。そこら中で小鳥達が囀っているのが聞こえてきましたが、人の姿は見えません。どんどん進んで行くと、ロング・ハウスが何軒も建っているところへ来ました。
その中をのぞくと、鳥かごがいっぱいあって、それぞれ違った種類の小鳥が入っていました。
「狩りをするのにいい。」とテンは言いました。「開放しようじゃないの。」
手早くアナグマとテンは鳥かごを作るのに隅々を結んである皮ひもを噛み千切り、小鳥達を逃してやりました。小鳥達はみなさっき開けた穴から逃げ出したので、今世界にはあらゆる種類の小鳥達がいるのです。
アナグマとテンはさっき開けた空の穴を今度は大きく広げ始めました。空の国の暖かさがその穴を通って下の世界に落ちて行き、雪が溶け始め、雪の下にあった草や木の芽が緑色に変わり始めたのです。
空の人々が気付いて出てきました。アナグマとテンに向かって大声で怒鳴りながら走って来ました。
「泥棒!」と彼等は叫びました。「暖かい気候を盗むのを止めろ!」
アナグマは穴から飛び降りて逃げましたが、テンは穴を広げ続けました。充分大きく広げなければ空の人々がすぐ修理して塞いでしまうと思ったからです。そうすれば下界はまた冬に逆戻りではありませんか。
せっせとテンは穴を広げるために噛みつづけ、空の人々が近くまで来て捕らえられそうになるまで止めませんでした。穴は下界が半年は暖かくいられるに充分な大きさになりましたが、年中暖かい気候を楽しむのに充分ではありませんでした。だから毎年冬は戻ってくるのです。
テンは空の人々が空の穴を閉じようとするだろうと判っていたので、気を反らすために彼等を嘲って挑戦しました。
「わしはテンだ、偉大な猟師だ。」と彼は言いました。「お前らなんかがわしを捕らえられるものか。」そして空の国の一番高い木に登りました。
空の人々はみんな彼を追いかけましたが、もう後少しで捕まえられそうになった時、一番高い枝に飛び移りました。そこまでは誰も追いかけて来られません。
初めのうち、空の人々はどうしていいか判りませんでした。やがてテンに向かって矢を射はじめたのですが、テンには特別な能力があるので傷つきません。彼の尻尾の或る一箇所だけが命取りの場所なのです。やがて空の人々にはそれが判ってきました。そして、ついにその急所に矢を射込んでしまいました。
テンは仰向けに転ろび、落ちて行きましたが、下界には落ちませんでした。約束を守ったことや、全ての人々のために良いことをしたテンをギッチ−・マニトゥが哀れに思って地上に落ちる前に空の星の仲間に入れてくれたのです。
今でも空を見上げたら、彼を見ることができます。人々はその星座の形を『大ビシャク』と呼んではいます。
毎年彼は空を横切って行きます。空の人の矢が彼を射止めた時、冬の空に仰向けに転びましたが、冬の終わり頃になると忠実にも彼は再び四足で立って、暖かい気候を地球に持ち帰るための長い旅に出て行くのです。(オジブエー族の民話)
昔々、西部の大きな川に沿ってイヌイット(エスキモー)の村がありました。冬が来て食べ物が不足するようになると、多くの村人が飢え死にするだろうことを彼等は知っていました。
ある夜男達が集会所に集まって話し合っていました。若者たちの中にはカリブーを追って内陸に奥深く入って行こうと言う者もいました。「いや、」とアイピリックが言いました。「もし、内陸深く入って行ったら雪が柔らかだからカリブー(トナカイ)に近づくことなんてとても出来ない。カリブーはさっさと雪の上を逃げてしまうけど、君達はひどくのろのろ行く事になるんだよ。」
「僕が行く。」とサパが言いました。「僕がカリブーを見つけて、この谷間に追い込むよ。」
「君が死んでしまう事は確かだ」とアイピリックが言いました。
川沿いに沢山の小さな木が生えていました。サパは注意深くその辺を見渡しました。なぜなら時々インデアン達がここに焚き木を集めに来ていたからです。でも今日は何故かインデアン達の姿は見えません。彼はゆっくりと雪が堅くてあまり深くない高い丘に沿って歩いて見ました。彼はその木々の枝をいくらか取ってロープで括り、それを額から背中に掛けて下げ、背負って持って行きました。
何日もの間サパはその高い丘に沿って歩き、やがてカリブーの沢山いる谷間に辿りつきました。サパは腰を下ろすと持って来た枝を使って何かを作り始めたのです。それが終ると彼はやはり持って来ていたカリブーの皮を被ってカリブーの群れに近づきました。カリブーの皮を被っているのでカリブーたちは彼が人間とは気が付きません。
サパはしばらく待ってからカリブー達が逃げ出すように大きな音を立てました。カリブー達が行ってしまうと被っていた皮を脱ぎ、枝で作った大きな靴を履いてカリブーの後を追いかけました。
何日もの間サパはカリブーの群れから離れない様にしていました。いつも彼の家族が住んでいる谷間の方に追い込むように仕向けながらです。大きな靴のおかげで柔らかい雪の上でも速く歩くことができました。間もなく彼の村人達が住む谷間の近くに来ました。彼は大きな靴を脱ぎ、それを雪の下に隠してから、カリブーを連れてきた事を村人達に告げに行きました。直ちに男達が出てきて、カリブーをすばやく凍った川沿いに追い、沢山獲物を得る事が出来ました。
その夜みんなが雪の家の中に座って肉を食べている時アイピリックが「今まで来たことが無いくらいキャンプに近い所にカリブーが来たおかげで美味しい肉を食べられるのは運が良い」と言いました。彼はサパがカリブーをキャンプに連れてきたことを信じられなかったのです。
「僕がカリブーを追い込んだのよ」とサパが言いました。「僕は彼等を見つける前に五回も眠ったんだぜ、それからここへ連れてきたんだ」
「どうやって柔らかい雪の上を歩けたんだ?」とアイピリックが聞きました。
「それは言えないよ」とサパが答えました。
誰もサパを信じませんでした。何日もの間彼は不服でした。しかしある夜彼は男共みんなに集会所に集まってもらい、どうやって雪の上を歩くか見せたいと言いました。
みんなが集まってから彼は小さい枝で作った大きな靴を見せました。すぐにみんなは興奮してしまいました。「今度から」とアイピリックが言いました。「インデアンの住む南の方へ行けるね。僕達は柔らかい雪の上を走れるから彼等に捕まる事がないもの。」
「彼等が僕達の靴を見たら同じ物を作ってしまうよ。」とサパが言いました。
「それよりみんなでカリブーを追って内陸へ行こうよ。この川辺りにとどまって魚ばかり食べてるよりその方が良いよ。」
みんなサパの意見を聞き入れました。彼等はサパが真実を言っていることを知っていたのです。次の冬イヌイット達はカンジキを履き、大きなカリブーの群れを追いながら川辺りの谷間を後にしました。(イヌイットの伝説から)
カンジキは英語ではスノーシューなので、直訳では「雪靴」になってしまいます。事実そういう誤訳を良く見かけます。
日本のカンジキは楕円形ですが、カナダのはテニスのラケットのような形をしています。
スノーボードなどスピードを楽しむスポーツが流行ってきている中、昔ながらのカンジキを履いて冬のハイキングを楽しむ人達もまだまだ多いです。
インディアンの神様ギッチー・マニトゥが世界を創造したばかりの頃は、世界には色というものがなく何もかもが真っ白でした。
物を創る時にはただ有益なだけではなく美しく創ることもギッチー・マニトゥのモットーでしたから、真新しい塗り絵のような世界をより彩り良くするために絵の具を塗ったのです。
ギッチー・マニトゥは初め動物たちを塗りました。主として茶色と灰色を使いましたが、黒とか赤も所々に使い、感じのいい彩りに仕上げていきました。この動物たちはただ役に立つだけでなく眼に美しいものとしても創られたのです。ただ、冬が来て木々が裸になったとき危険から身を隠すことができなくなるため、何種類かの動物たちには、冬には元来の白い色にもどることを許してあります。
木々も初めは真っ白だったのです。ギッチー・マニトゥは木々や草には緑色を使いました。ときには黄色やだいだい色も使ったので、これが濃淡のある緑とうまく映り合い、草や木も単に役立つだけでなく眼の疲れを慰める美しいものになりました。
花々には思いつく限りの色を使いました。ギッチー・マニトゥは花を塗るのにその色彩感覚の良さを充分に発揮したのです。でも、ギッチー・マニトゥは数限りなくある花々を全部塗り終えることができませんでした。
それはそれはたくさんの花がありましたし、花は一番後回しにしたので花を塗り終える頃にはギッチー・マニトゥは考える力もない程に疲れ切っていました。絵の具もほとんど使い果たし、絵の具壷の底にはほんの少し赤い絵の具が残るだけになっていました。
この赤い絵の具はトリリァムを塗るために取っておいたのですが、いくつも塗らないうちにすっかり無くなってしまったのです。そういうわけで赤いトリリァムは少ししかありませんし、春に森の中で見かけるトリリァムのほとんどはギッチー・マニトゥが世界を創造した頃のままの真っ白なのです。
絵の具をすっかり使い果たしたとき、ギッチー・マニトゥは性根尽き果てて赤い絵の具の付いたままの絵筆をほっぽり投げて休息を取りました。この絵筆は飛んでいって地面につきささり花になりました。ですからインデァンの絵筆と言う花はギッチー・マニトゥが一番最後に創った花なのです。(インデァンの民話から)